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ありけんエッセイ集


有田健太郎のエッセイコーナーです
by a-k_essay
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時々タイムスリップ『釣りに行こう』

クリアな陽射しは容赦なくアスファルトを照らしつけて、湿った風は汗をより促して。
暑さで参ってる僕は、公園の端の水場へ向かった。

勢いよく水を吐き出す蛇口の下に首を持ってゆき、ジャバジャーー。

はぁ〜

体温が下がるようで、気持ちいい。
多少髪が濡れたってかまいやしない。
ジャバジャバと水が飛び散る中、ふと、手元のコンクリートに蝉の抜け殻を見つけた。
飛び散る水の隙間、琥珀色のそれは光を透かして、涼しげに見えた。

右手で陽射しを遮り、見上げた空はうんと高く。
今は盛夏。暑いったらありゃしない。


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【近所の花屋にて、陽射しの中のハイビスカス】
しかしなんて陽気なんだ。南国ではこんなのがそこら中に咲いているのだろう。
そりゃサンバとかできるよね。行ってみたい。




大学時代は岩手県で過ごした。

この時期、やっと雪解けした岩手山がその山肌の多くを緑色にし、短い夏を、多くの生き物達は本当に楽しそうに過ごす。

岩手山山麓の滝沢村に在する大学も緑に満ちあふれていて、リスが横切り、キツツキやかっこうなどの鳴き声も当たり前のように鳴り響いていて。
僕は学校に行くのが好きだった。

バンドを始めたばかりの僕らは、夏休みも練習に励んだ。
いつもはなかなか空いてない部室も、帰省などでオフにするバンドが多く、へたくそな僕らは、ここぞとばかりに毎日のように部室に入った。

敷地のはずれ、部室代わりにあてがわれたプレハブ小屋に冷房などなく、東北とはいえ、窓を全開にし、扇風機3台がどんだけ頑張っても暑いものは暑かった。

ギターやベース、キーボードは、ワイヤレスを付けたりシールドを伸ばしたりして外に飛び出した。
部室前の草原を好き勝手に駆け回りながら弾くギターは、最高に気持ちよかった。

やがて、一人だけ移動出来ないドラムが怒って、リハは止まってしまった。

あー、緑の大地。

ダレダレとした演奏が2時間程草原に響いた後、「やってられるか!」と僕らは釣りに行った。


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【杉ゴケの世界】
真夏に、涼しげ。蟻や小虫にとってはちょっとした林やね。



校舎のうんと外れに、調整池と東屋があった。
テニスコート大くらいのすり鉢状の池には、コイが放してあり、半野生化していたのだ。

水面は、その向こうに続く木々や山々をドーンと映していて、気まぐれなさざ波がそのピントをぼやかしたり合わせたりしている。

ブナを揺らし、ざざーっと森を駆け抜けてゆく夏の風は、懐かしい音がした。


チャポン…

餌は、生協の頭脳パン。

水面に映る緑の山々に、赤いウキが遠近感をなくしてじっと浮いている。

釣りはこの時間がたまらんよね。


日影は風の通り道。

夏はじっと止まってはいないということを、涼しい風が教えてくれる。


ムッ…ムッムッムッ…

どりゃあ!!

ばしゃばしゃばしゃばしゃ〜

でけぇでけぇでけぇでけぇー

50cmはある大きな鯉だ。


だけど楽しい時間は長くないもの。

警備員が、昔のマンガに出てくる警官のように、ピョンピョン飛んで来た。



太陽が夕陽に変わりはじめた頃、僕らは部室へ続く草原のジャリ道をダラダラと歩いた。

蹴っ飛ばした石ころは、何度か跳ねた後草むらへ飛び込んでいき、足下で舞い上がった砂煙はふーっと流れてゆっくり大地に溶けていった。

そりゃそーだよ。
あんな派手な色したコイ釣ってりゃ怒られるわな。


やがて秋になると部室前は、一面ススキ野原に変わるんだ。

そして釣竿には、すぐトンボがとまる。



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【帰りのホーム。たまには一本見送って】

南の空には、エベレスト級の積乱雲

北の空には、8000メートル上空の千切れ雲

東の水平線には、まだ化粧中の月

西空からは、切れ味のよい斜陽

勢いよく滑り込んできた下りの電車は、たくさんの人をさらって

誰もいなくなったホームに、邪魔されず伸びるのは、影

夏の日、少し頭がぼーっとしているのは、影主の僕





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by a-k_essay | 2008-07-27 17:53
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