ありけんエッセイ集


有田健太郎のエッセイコーナーです
by a-k_essay
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『時々タイムスリップ』 伸びてゆくのは僕の影

昼休みのチャイムが響くグランドの入り口。
秋の風を受けて、一本のメタセコイアというスギ科の大木が立っていた。
手を触れ見上げて懐かしくなっている僕を、子供達はせかして、ドッチボールが始まった。

これはありけんが教育実習生として、母校で小学校の先生をしていたときの話である。


「おりゃー」「ていっ!」「どりゃぁぁー」
子供相手のドッチボールにもいたって本気のありけん先生は、あと少しで全滅させる勢いだった。

しかしすぐ近くで、隣のクラスの男子生徒どうしのケンカがはじまったんだ。
最初のうちは見て見ぬふりをしていたのだけど、だんだんエスカレートし、つかみ合いになってきたのでやむを得ず止めに入った。

(もう、、あと少しで全滅なのに)

止めなさいと割って入る僕に、一方の子供(以後:タケシ)が怒って言った。

「うるさい!子供のケンカに大人が口出すな!!」

その瞬間、僕の頭は超高速で世界を一周し、長い長い時をさかのぼった。

はぁぁ

なんということだ。
そのセリフは、僕も子供の頃に同じように使ったことがあったのだ。

十数年もの時を経て、なおもこの名ゼリフがこの土地に受け継がれてきたことに感動し、同時にむかついた。

そして「うるさい!子供のケンカに大人が口出すな!!」というタケシに向かって。

「そのとうりだぁ!!」と叫んでしまったのだ。

さて、みんな困った。

(お前…、止めてくれるんじゃないのかよ)と子供。

(おいおい、止めに入って「そのとうりだ」はないだろう…)と僕。

「うぐぐぐぐ…」

どうしようもない時間が流れた。

どうしようもない時間とは、きっとこういった時間のことをいうのだろう。
もしこの時『世界どうしようもない時間大会』という大会があったなら、僕らは確実に上位入賞していただろう。


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【夏の花】



このどうしようもない時間を打破したのは、やっぱりタケシだった。
再びもう一方の子に手を出し始めたのである。

しかし、手を出しているのはタケシだけで、もう一方の子はそれを阻止しているだけなのに僕は気づいた。

(よし、突破口はここだ)

「おい、手を出さないヤツに手を出すのはひきょうだぞ」

再び割って入る僕に。

「こいつも手を出せばよかろうもん!」とタケシ。

危なく「そのとおりだぁ!」と言いかけたありけん先生は、さすがに怒った。

「うおおおおー」

二人の首根っこを持って、グランドを引きずっていったのである。

(おおー、おれ、先生やってんなー)

乾いたグランドに砂煙が舞った。

移動地点:グランド中央部A地点からグランドやや中央部B地点まで
移動距離:15メートルくらい
ねらい:先生は怒ってるんだぞ!のアピール
効果:アクションのわりに50%
優勢状況 移動前→移動後 (子供:先生=6:4)→(子供:先生=4:6)

危うく「お前らがケガしたら、先生が校長先生に怒られろうが!」と出かけたが(もはや子供が子供を教えている)、双方の話をよく聞いて、時間とともにようやく3人は落ち着いたのである。



5時限が終了した頃、教室にいる僕に向かって手を振りながら仲良く廊下を歩いてゆくあの2人がいた。

……

きっと毎度のことなんだろうな。

「子供のケンカに大人が口だすな」かぁ。

子供も大人も、あまり差はないなと思った。


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【東京は武蔵野。千川上水】



4階建てのビル程もあろうかという大木、メタセコイア。
この学校のシンボルで、僕が子供の頃には2本あった。

入学したての僕はこの木に登って、降りれなくなったんだ。
その時、担任の若い女の先生が下から必死で「気をつけて〜」「がんばって〜」と叫んでいた。

どうにかして降りきった後、その先生に抱きしめられ、怒られたのをぽーっと覚えている。

ただただ、やさしかった。



長い歳月の間、2本の大木のうち1本は雷に打たれてなくなってしまったらしい。

授業のあい間に目をやる窓の外。
あれから何人の子供があの木に登って降りれなくなったかな。

あの木が残っててくれてよかったと思った。



晩夏の帰り道。
グランドに伸びるメタセコイアの影は、どこまでも長く伸びてゆく。
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by a-k_essay | 2007-08-30 02:07
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