ホテルのカーテンを開けると、眩しい朝日に思わず手をかざした。
旅先なのにたくさん寝たので気分は良く、干していた洗濯物を取り込み、準備を終えた僕は新潟駅へ向かった。 信越本線や羽越本線では日に数本、快速列車が運行されている。 走行距離も特急とさほど変わらず、速く。なのに特急と違い、普通運賃で乗れるのだ。 しかも車両は旧国鉄の特急車両を使っているので、疲れずに快適。 長距離を飛びたければこれを逃す手はない。 僕は、昨晩完璧に練ったプラン通り10:15発の『きらきらうえつ』(指定券の510円だけは別にかかる)の座席指定券を申し込んだ。 「あー、もう満席ですね〜」 … 窓口スタッフの次に発せられる『お助け案』を待ってみたのだが、彼の口からは何も続かなかった。 あっさりである。 仕方なく30分後に出る特急『いなほ3号』で、酒田(山形県)まで飛ぶことにした。 普通列車の旅で、特急列車を使うのは『フリー切符旅人』にとってパス1を意味する。 別途にお金がかかるし、プライド(あまり無い)にも関わるからだ。 僕はもうパス2だ。リーチである。 でも、やっぱり、特急はいいよね! 快適やもん。 窓辺にはずっと海、海、海。 高くなった太陽に照らされ、澄んだ海が様々な青のステンドグラスのように流れてゆく。 となりの席では、女子大生らしい2人がなにやら熱く語っているもよう。 夏休みを終え、新学期に向かっているのかな。 一人でなんだか楽しくなってきている写真。 酒田駅で各駅停車に乗り換え、秋田方面に向かった。 ちょっと進んで『吹浦(ふくら)駅』で2時間の待ちとなった。 『2時間の待ち』は時刻表により分かっていたのだけれど、時刻表の地図が海岸線に近かったのと、『吹浦』と言う地名から、海に近いのではないかと予測していた。 終点の折り返し列車を降り、ホームで伸びをしていた運転手に聞いてみると、松林の裏はすぐ海だということが分かった。 2時間の待ちと言うと大変なものである。 折り返し列車はカーブの先へ消え。 駅舎には、駅員はもちろん僕以外だれもいなくなった。 暑さをより暑く演出する蝉の鳴き声に混じり、 風鈴よりも軟らかく軽い鈴虫の音が、真夏を少し後ろへ遠ざけてしまっているよう。 …晩夏だ。 東の鳥海山に覆いかぶさるように成長中の入道雲は、山をより壮大に見せ。 その雲端が少しずつこちらへ進出し始めた頃、僕はと言えば。 海でカニを捕まえていた。 駅を出て集落の小道をうねうねと進み、 青空へ突き伸びる踏切棒を仰ぎ、 当分列車の来ない線路でお決まりの写真を撮り、 汽水川の橋上を魚影を探しながら渡り、 海の気配に連れられて、まだまだ、どんどん歩いてゆく。 海って、なかなか着かんよね。 でも、なんだか、一人ですごく楽しくなってきた。 うおー うおーー! 海はどこだ! きゃー、海〜! 靴を脱ぐと足が焼けそうに暑い。 飛び込め! 当然、水着(パンツ)de 泳ぐ! スイカがたくさん芽吹いている(笑) スイカ割りの後、みんな焦る気持ちを押さえて、ちゃんと種を出しながら食べたのでしょうね。 えらい。 砂浜を犬のように駆け回って、写真撮って、横になって、ボーっとなって、 本当によい時間だった。 吹浦駅への帰り道は『鈴虫小道』。 銭湯帰りのように、ほあっとなって、遅い午後は秋の優勢。 踏切を越えた電柱で、8羽くらいのツバメの群に出会った。 ペチャクチャペチャクチャ、、 きっとまだ始まったばかりの、南国への旅中なのだろう。 お互い気をつけて、また会おう! 2時間経って、申し訳なささなど微塵も見せずにやって来たガラガラ電車は、吹浦のホームから僕と2人の乗客を連れて、さらに北へと向かった。 16時を回った太陽は、少しずつ夕陽へ変わり始めていた。
by a-k_essay
| 2008-09-09 17:55
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